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  • 三宅 玲子

錦繍


2020.12.05

緑と黄金色が混じり合って銀杏が降り注ぐ坂道。

こんな彩りで冬へと移ろっていくこと、何年も通っていたのにこの秋初めて知りました。


銀杏並木に包まれるようにして歩いた日は数えきれません。

ある日は朝いちで、ある日は午後から。

同じなのはバッグにコンピューターと資料を詰めていたことです。


晴れ晴れと坂道を下ったことはなく、進まない原稿、うまくいかない取材先の交渉。気がかりが頭に貼りついた状態で歩く日ばかり。後悔とか、どうやって立て直したららいいのかわからない絶望とか、チクチクする思いの朝もありました。傷が癒えても、通りがかりのふとした拍子にオーバーラップして息が苦しくなったりもします。


それでも坂のふもとのコーヒーショップに辿り着けていたのは、運のいいことに下り坂だったことと、いつでもあたたかく迎えてくれる店の人たちと、コーヒーが美味しかったこと。そしてこの銀杏並木があったからでした。


冬は木漏れ日に深呼吸をうながされ、夏は木陰が強い日差しから守って、坂の途中で足を止めないようにそっと背中を押してくれた銀杏並木。


まだ残る緑の葉と色づいた黄金色が重なるように茂る並木道。

きっとこれまでに過ごした秋にも同じ景色を見せてくれていたんでしょう。


余裕なく思いつめていた自分が周りを傷つけていたことを思い、同じ景色から何を見るかは自分の心次第なんだなと、枯れていくのにカラフルな銀杏に気づかされた思いがします。

思いやることと感謝することを雑にしてなかったかな、とも。


長くかかった仕事が終わってもまだ続いていたダメージをようやくほんとうに手放してまた新しく進めるかもしれないなと、錦繍の銀杏並木から始まる第二幕を初めて思えた、雨の土曜日です。

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