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  • 三宅 玲子

袖振り合うもリアルでこそ。

2020.05.27

コロナ明けて、今日は電車で都内の取材先へ。

お昼時の車内は、間をひとり分ずつ空けて座れるくらいにゆったりとしていました。

ひとつめの駅でご老人が乗り込んで、私から1人空けてシートの端に着座したのはなんとなく視界に入りつつ資料を読んでいたのですが、ふと気づくと、ご老人の脇にバーを掴んで立っている老婦人は、奥さまのよう。

慌てて立ち上がって席を進めようとした私を制して老婦人は言います。

次の駅でおりますから。それに近くで立ってお世話しないといけなくて。

脇からご老人が私を労うようにつけ足しました。

この人はまだまだ元気なの。僕はすっかり悪いんだけどねえ。

ユーモラスな口ぶりです。マスクで口元を覆っているものの、目は闊達だった頃を思わせる凛々しいお顔立ちと拝察しました。

80代とおぼしきおふたりの薬指にはシルバーの指輪が鈍く光っています。

朗らかな言葉に吊り込まれて笑っているうちに電車は駅のホームに滑り込みました。

奥さまは、バーを離すと立ち上がるのを支えるためにだんなさまの前へ回り込みました。だんなさまの手を取ろうとする一瞬の合間のこと、奥さまから「これ、どうぞ」と差し出されたのは、のど飴。

静かなサプライズに、言葉が出ないわたし。

それではね。さようなら。

お気をつけて。

マスク越しににっこりを交わして後ろ姿を見送ったのです。

わずか2分の出来事が取材前の緊張をほぐし、心をあたためてくれました。

こんなふうに袖振り合えたのも、お出かけのおかげです。

やっぱり、リアルっていいですね。