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三宅 玲子

田園地帯の美しい反骨書店

浮羽郡吉井町(現在のうきは市吉井町)といえば白壁造りの町並みで知られていますが、それ以上に、耳納連山の麓に広がる青々とした田園風景が美しい場所です。

90年代に吉井町の白壁造りの町でカフェや雑貨店がちょっとした人気になっていて、それを仕事のタネにしたことがありました。だけどそれから随分時間が経って再訪した今回、豊富水資源とその源の山並みに圧倒される思いがして、初めて訪れるような気持ちで町を歩きました。


白壁造りの町のおしゃれな本屋と聞くと、本がある風景を利用したブックカフェを想像しないわけでもなかったのですが、ところがどうして、むしろ歴史ある町並みを消費するようなやり方には距離を置きたいと言い切る反骨に驚きました。


書店主の石井勇さんは、書店を始める前はデザインに特化した雑貨とカフェの運営会社に勤務していらして、その時期にデザインと町と人の関係をじっくり考える時間を持ったそうです。

考える時間を持った先に、新しいことを始めるにあたって、美しい田園風景のあるふるさとで、「本」という考えるための道具を商うことを選んだところが、おもしろいと思います。


そこには大きな声では語られないものの、ふるさとで育つ次の世代をはじめ、ここで暮らしている人たちにとって本屋があることの大切さを思っているのは、自分たちで自分たちの町のことを考えられるようでありたいということかなと思いました。

石井さんはそれを正義っぽく、難しく語らない方でした。等身大というのでしょうか。


毎朝10時に出勤して1時間かけて店の内外を掃除して、11時に開店するそうです。お店の中は隅々まで目配りが行き届いていて、そこに余白をとって並べられた本を眺めるのは気持ちのいいひとときでした。都市部からの観光客にとっても日常から離れられる空間だと思うのですが、それ以上に、地元の人たちにとって本と出会う大切な場所になっているようです。


自然に近い場所で、自分の思い描く場所をつくり、本を並べて売るという仕事に黙々と取り組む石井さんは、ちょっと力が抜けたおおらかな感じのする人で、それがこの人の何よりの武器のように思えたのですが。それを育んでいるのはそばにある自然ではないかと思ったことでした。


ちなみに、かつて五一五事件で軍事批判を行ったジャーナリスト・菊竹六鼓の出身地でした。風土と人と思想と書店。つながるのは必然ではないかなとも。

また訪ねたい場所です。


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